愛より強く
2007-05-21


禺画像]
愛より強く GEGEN DIE WAND
2004 ドイツ・トルコ 監督:ファティ・アキン
ビロル・ユーネル ジーベル・ケキリ

人生に絶望して自殺未遂を起こしたジャイト(ユーネル)。保守的なイスラム教徒の家族から逃れるために、やはり自殺未遂のふりをしたシベル(ケキリ)。ふたりは精神科クリニックで出会った。結婚だけが自由になる唯一の手段と考えた彼女は、ジャイトに自分と結婚してくれと頼む。彼は同意し、愛のない結婚、同居生活が始まった。

舞台はドイツのハンブルグ。トルコ系ドイツ人が主人公の話は初めての体験。イスラム教徒の女性の窮屈な環境の現代劇がここまでリアルに感じられたのは私には初めて。同じトルコ系だったためにジャイトは家族に結婚を認められ、シベルは自由を満喫し、ジャイトもいつしか生きる力を見出していく。

これほど“粗暴”という言葉がぴったりな、そしてそれがこれほどセクシーに見せてしまう俳優を見たのは初めてだ。熱く激しくそして静かな憂いのあるビロル・ユーネル。トルコ人俳優はもちろん初めて。マチュー・アマルリックの甘さとジェラール・ランヴァンの男臭さが混在したような。無骨だけどどこかソフト。もの凄く魅力的。しびれる〜って感じっ♪

ジャイトは熱い血が流れる激しい男だ。怒りも喜びも感情表現が爆発的。触れただけで火傷しそうな男っていうのはこういう男を言うのだろうか?結婚を迫るシベルに付き纏われてブチぎれて怒鳴り散らしてはバスから放り出される。イライラが爆発して部屋中の物をぶん投げる。シベルに恋した喜びが溢れた時だって・・・何もグラスを拳で叩き潰さなくたっていいじゃんよ〜。割れた破片で傷ついた手が血まみれになってるのに嬉しくて満面の笑みを湛えている・・・。あまりの極端さに私は何度か笑ってしまった。
が、しかし、この粗暴で激しい性格が災いしてふたりは引き離されることになるのが悲しい皮肉。

ふたりとも新しい生き方を見出すために出逢ったはずだった。お互いに今までにない喜びを知るきっかけになる相手のはずだった。愛のない結婚生活だけではなくなるかに見えたのに。運命はふたりを引き離した。

激しいラブシーンやおびただしい流血と暴力的描写が色濃いが、ふたりのやりきれない絶望や自由を貪ろうとする切羽詰った感情の表現であって犯罪的なイメージとは程遠い。
ふたりとも痛みを持ってして感情を実感せずにはいられない悲しい性なのだ。そこがふたりとも同じだから分かり合えるはずだった。痛みも喜びも分かち合えるはずだった。

イスタンブールで再会した時のふたりの甘さ。見つめあう表情の柔らかさ。これは引き離される前にふたりの間に交わされるはずだったもの。あまりにも切ない。
怒り、喜び、哀しみ、痛み、愛しさ、寂しさ・・・様々な感情がスクリーンから溢れ、観ている者に投げつけられる。
このラストでふたりが手にした感情はどれだったのだろう?観ている私が受け止めた感情はなんだったんだろう?
[映画レビュー]

コメント(全4件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット