「チャイルド44」 トム・ロブ・スミス
2009-02-11


禺画像]
「チャイルド44」 トム・ロブ・スミス
CHILD 44
by Tom Rob Smith
(新潮文庫)

1950年代スターリン恐怖政治下のソ連。モスクワの国家保安省のエリート捜査官レオ・デミドフは死亡した息子は殺されたのだと主張する部下の家族に、「殺人ではなく事故だった」と説得するよう命じられる。省内の確執と陰謀によって地方の民警に移送されたレオはその地で再び子供の死体を目にする。適当な容疑者が逮捕されたが、彼の脳裏にモスクワの1件が蘇る。

これも2008年度このミス海外版で1位の作品。書店でも積まれているし、図書館でも人気が高く、30人以上待ち。半年もすれば読めるかと思っていたら友人の間でも評判で、思いがけなく待たずに読めることに。(ありがと〜う!)
上下巻で700ページ強の長編だが、不思議に引き込まれるようで、私でも1週間ちょいで読めてしまった。 なので早い人は2、3日で読めます。訳がミステリー翻訳で馴染みの田口俊樹なのでなおさら非常に読みやすいのかも。

冒頭から上巻の終盤近くまではいつ事件の核心場面になるのか?と思いながらも、舞台となる独裁国家だった恐怖政治下のソ連の国家、国内の様子がこれでもかってくらいの描写が凄まじい。エリート捜査官の主人公たちも貧しい市民の暮らしが明日はわが身。同僚を告発してもわが身を守らなければならない状態。実際、主人公は部下の恨みをかって処刑寸前で地方に移送される。
サスペンス物語はここからが本番で、下巻の展開はめまぐるしく逃亡者さながらの主人公と犯人を追いかけてどんどんスピードが増す。序盤の情景が最後にそう繋がるのか〜と、練られた構成が巧みだ。
読み応えのあるサスペンスに独裁国家、時代に絡めた人間の信頼関係に訴えるシリアスなドラマだった。

その歴史にあまり明るくないスターリンの時代と国家。凍えるような寒さの冬の描写が「ゴーリキー・パーク」を思わせた。貧しい市民の暮らしは想像を絶する厳しさで、はじめて知る内情だった。雲泥の差があるエリートと反体制派と目された人々の暮らし。国家が第一で個人は二の次。
その中で共通して描かれるのがどの家族にも“兄弟”がいること。最初に登場する貧しい兄弟に始まり、モスクワの最初の遺体は雪遊びをしていた兄弟の弟。主人公がスパイ容疑で追う獣医には二人の娘、主人公を敵視する部下は自分の兄を告発し、捜査に手を貸す民警の署長にも二人の息子がいる。逃亡の先々で手を借りる田舎の家族たちにも複数の子供たちが。そして犯人にも・・・。
時に温かく、時に厳しく。最初から最後まで様々な場面に織り込まれた数々の兄弟たちの姿がどれも鮮やかだ。この“兄弟”たちに込められたものは何なのだろう。
サスペンスとして面白く読めたのは確かなんだけど、ヒューマンドラマ部分に冷静になる。盛り上がって楽しく読めるエンタメとはちょっと違うなというのが正直な感想。

さて、各国で人気を博した本作は当然ながら映画化権が売れている。しかもリドリー・スコットですと。となると主人公はラッセル・クロウ!と考えるのは安直過ぎる?(笑)
主人公は“ハンサム”なロシア人。私が思い描いて読んだのはニコライ・コスター・ワルドウなんだけどな。ちょっと若いかなって気もするが、主人公は30代なんだよね。
敵視する部下、微妙な関係の妻、民警の署長、そして犯人。と、いい役者が揃ったら映画として十分成功しそう。リドリー・スコットに期待します。
[book]

コメント(全4件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット